任意後見契約は、判断能力が十分なうちに支援者と支援内容を自分で決めておく制度です。ただし、契約を結んでおけば入院や施設入所の場面がすべて解決するわけではありません。実務では、身元保証(身元引受)をどう手当てするかが、別の課題として残ります。
医療機関や施設が求める「身元保証人」には、緊急時の連絡先、入退院の手続や付き添い、利用料の連帯保証、亡くなった後の遺体・遺品の引取りといった複数の役割が混ざっています。何を求められているのかを分けて考えることが、対策の第一歩です。
任意後見人は身元保証人ではない
任意後見契約は公正証書で作成し、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で効力が生じます。任意後見人の職務は財産管理と身上保護であり、本人の入院費や施設利用料を本人の財産から支払うことはできても、自分の財産で肩代わりする保証債務まで負うものではありません。潜在的な利益相反のおそれもあるため、後見人が身元保証人を兼ねる取扱いは一般に想定されていません。また、医療行為への同意は、後見人にも身元保証事業者にも認められていない点に注意が必要です。
「身元保証人がいないと入院できない」わけではない
厚生労働省は平成30年4月の通知で、身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒むことは医師法の応招義務に抵触するとの考えを示しています。介護保険施設についても、正当な理由なくサービス提供を拒否することはできません。施設や病院と話し合い、後見人が就いていることを説明して受け入れにつながる例もあります。断られる前提で慌てて契約する必要はない、というのが出発点です。
民間の身元保証サービスを使うときの確認点
とはいえ、緊急連絡先や退院・退所時の対応を求められる場面は現実にあります。民間事業者を利用する場合は、令和6年6月に国が公表した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が参考になります。サービス内容と費用、預託金の管理方法、解約時の返金、契約終了の条件を書面で確認してください。費用を長期にわたり前払いする契約では、トラブルの相談も報告されています。
なお、このガイドラインは、行政書士など業法による規制がある士業を直接の対象とはしていませんが、契約内容を見極めるうえで役立ちます。
制度を組み合わせて設計する
効力発生までの空白を埋める見守り契約や財産管理委任契約、亡くなった後の手続を託す死後事務委任契約を組み合わせれば、身元保証に期待される役割の多くは分担できます。身寄りのない方だけの問題ではなく、家族が遠方にいる、高齢で対応が難しいという場合にも同じ課題が生じます。なお令和8年6月に成年後見制度の改正法が公布され、任意後見に関する見直しも含まれています。施行日は今後政令で定められるため、最新の運用を確認しながら準備を進めましょう。
任意後見や身元保証の備えについて迷われている方は、このページ内のお問い合わせフォームよりご相談ください。当事務所では、任意後見契約・見守り契約・死後事務委任契約の原案作成や公正証書作成のサポート、必要な制度の組み合わせの整理を承ります(医療同意の代行や、当事務所が保証債務を引き受けることはいたしません)。愛知・岐阜・三重を対応エリアとし、初回相談は無料です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。