はじめに
建設業許可において、「専任技術者」は営業所ごとに必ず置かなければならない重要な要件です。しかし実務では、前の会社が廃業届を出さないまま、別の許可業者に転職して専任技術者として届け出るケースが少なくありません。この記事では、そのリスクと法的問題点、防止策をわかりやすく解説します。
1 専任技術者は「常勤」が大前提
建設業法第7条・第15条は、許可を受けた営業所ごとに常勤の専任技術者を置くことを義務づけています。ここでいう「常勤」とは、その営業所に常時勤務し、他の事業者と雇用関係がない状態を指します。パートや掛け持ちは認められず、実態として専念していることが求められます。
前職の会社が廃業届を提出しないまま許可の登録が残っている場合、行政の台帳上はその人物がまだ旧会社の専任技術者として在籍しているように見えます。その状態で新会社に専任技術者として届け出ると、形式上「二重登録」となり、常勤要件を満たさないと判断されるおそれがあります。
2 廃業届の未提出が招く法的リスク
建設業許可業者が廃業・解散した場合、代表者または清算人は30日以内に廃業届を提出する義務があります(建設業法第12条)。この届出を怠ると、行政庁の登録上は引き続き「営業を継続している業者」として扱われます。
その結果、退職した元専任技術者の状況が正式に抹消されないため、転職先での専任技術者届け出が重複した形になります。また、廃業届を提出しなかった旧会社は、届出義務違反として行政庁から是正を求められる可能性があります。
3 二重登録が新会社に与える影響
行政庁の審査において、同一人物が複数の会社に専任技術者として登録されていると確認された場合、新たな許可申請や業種追加が認められないことがあります。また、事実と異なる内容で届け出たと判断されれば、建設業法に基づく行政指導や是正命令の対象になります。
特に問題となるのは、新会社が善意で採用・届出を行っていたとしても、書類上の整合性が取れていなければ行政からの確認・指導が避けられない点です。旧会社・新会社・転職した技術者のいずれもが不利益を受けるおそれがあることを、転職前に理解しておく必要があります。
4 トラブルを防ぐための対応策
このようなリスクを回避するために、次の2点を必ず確認・実行してください。
① 旧会社の廃業届提出を確認する
転職前または転職後すみやかに、旧会社の代表者に廃業届が提出済みかどうかを確認します。未提出であれば、速やかに手続きを完了してもらうよう依頼することが必要です。
② 新会社での勤務実態を書類で整えておく
雇用契約書・社会保険の加入記録・出勤簿などを適切に整備し、新会社での常勤実態を客観的に証明できる状態にしておきます。行政庁からの確認があった際に、これらが有効な証拠となります。
まとめ
廃業届が出されていない旧会社に籍が残った状態で、別の許可業者の専任技術者として届け出ることは、建設業法上の整合性を欠く行為です。申請者本人・旧会社・新会社のすべてにリスクが及びます。
建設業許可をスムーズに取得・維持するためには、過去の雇用関係を確実に整理し、法的手続きを完了させてから次のステップへ進むことが何より重要です。手続きに不安がある場合は、早めに行政書士へ相談することをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。