2026年7月4日

当て逃げ事故に遭ったらどうなる?交通事故被害者請求ではなく「政府保障事業」を使うケース

 当て逃げ事故に遭ったとき、「加害者が逃げたなら、自賠責の被害者請求はできないのでは?」という疑問を持つ方が多くいらっしゃいます。結論から言うと、次のように整理できます。

 加害車両と自賠責保険が特定できる事故は、自賠責への「被害者請求」が可能です。一方、加害者不明・無保険車などで自賠責に請求できない事故は、「政府保障事業」への請求が対象となります。

1.「被害者請求」が前提としているのは”相手の自賠責がある事故”

 自賠責保険の被害者請求は、加害車両の自賠責保険(または共済)が分かっていることが前提です。相手車両と、その車に付いている自賠責の保険会社・証券番号が特定できて、はじめて「その自賠責保険に対して、被害者が直接請求する」手続きが取れます。

 したがって、当て逃げでも、後日、車両・運転者・自賠責が特定できた場合は、通常の事故と同様に被害者請求の対象になり得るというのが、被害者請求の枠組みです。

2.加害者不明・無保険の当て逃げは「政府保障事業」の対象

 一方で、ひき逃げ・当て逃げで加害者が特定できない場合や、加害者が自賠責保険に加入していない(無保険車)場合には、そもそも請求すべき自賠責保険が存在しないため、被害者請求そのものが不可能になります。

 このようなときに被害者を救済するために用意されているのが「政府保障事業」です。これは、ひき逃げ・無保険車による人身事故の被害者に対し、自賠責保険と同じ限度額で国(国土交通省)が損害をてん補する制度です。なお、政府保障事業はあくまで人身事故が対象であり、物損のみの当て逃げは対象外となる点に注意が必要です。

3.政府保障事業の典型的な利用場面

 政府保障事業の対象になる代表例は、次のとおりです。

 ひき逃げ・当て逃げで加害車両も運転者も不明のまま解決しないケース、加害者が自賠責未加入(無保険車)だったケース、盗難車の運行中に発生した事故などが挙げられます。いずれも、自賠責保険・共済からの支払いを受けられないため、その”穴”を政府保障事業が埋めるという位置付けです。

 また、健康保険や労災保険など他の社会保険から給付を受けられる場合は、その金額が差し引かれて支払われる点、任意保険の人身傷害補償保険など他の手段で救済を受けられる場合はその限度で塡補されない点も、自賠責保険との違いとして押さえておく必要があります。政府保障事業は、他の手段によって救済されない被害者への「最終的な救済措置」と位置付けられているためです。

4.政府保障事業を利用するときの大まかな流れ

 当て逃げ・無保険事故で政府保障事業を使う場合、一般的には次のような流れになります。

 まず警察へ人身事故として届出をします。物損扱いのままでは対象外となるため、人身事故の扱いが必要です。次に治療・通院を行い、診断書など医療関係資料をそろえます。その後、損害保険会社や共済組合の窓口で「政府保障事業の請求キット」を入手し、請求書・必要書類(人身事故証明、診断書、領収書など)を作成・提出します。そして国土交通省による調査・審査を経て、法定限度額の範囲内で保障金が支払われます。なお、請求できる期間は事故発生から3年間とされていますので、早めの手続きが望まれます。

5.まとめ:当て逃げで「被害者請求」ができるかどうかの分かれ目

 当て逃げ事故の場合、後日、加害車両と自賠責保険が特定できた場合は、自賠責に対する「被害者請求」が選択肢になります。一方、加害者不明・無保険車で、自賠責に請求できない場合は、政府保障事業への請求が中心になります。

 被害者請求と政府保障事業は、「請求先が”相手の自賠責”なのか、”政府(国の制度)”なのか」が決定的な違いです。ご自身のケースがどちらに該当するか判断に迷う場合は、専門家への相談をおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。