2026年7月31日

死後事務委任契約とは

 死後事務委任契約とは、本人が亡くなった後に必要となる手続きを、生前のうちに信頼できる第三者へ委任しておく契約です。法的には民法の準委任契約(民法第656条)にあたります。委任は本来、委任者の死亡によって終了しますが(民法第653条第1号)、この規定は任意規定と解されており、最高裁平成4年9月22日判決も、自己の死後の事務処理を含む委任契約は死亡によって終了させない旨の合意を含むとして、その有効性を認めています。

任せられる事務の範囲

 対象となるのは、火葬・埋葬や葬儀に関する手続、健康保険証・介護保険証の返納、年金の受給停止、入院費や施設利用料の清算、公共料金・携帯電話・インターネット等の解約、賃貸物件の明渡しと室内の整理、関係者への連絡などです。

 注意が必要なのは死亡届です。届出ができる人は戸籍法第87条で限定されており、死後事務委任契約を締結しただけでは届出人になれない場合があります。任意後見契約を併せて結んでいれば、任意後見受任者として届け出ることができます(同条第2項)。手続の入口でつまずかないよう、契約設計の段階で確認しておくべき点です。

遺言・任意後見との役割の違い

 遺言は財産の承継を定めるもの、任意後見契約は判断能力が低下した後の生前の支援を担うもの、死後事務委任契約は死亡後の実務を担うものです。三者は競合するものではなく、組み合わせて一体で設計します。なお、財産の分配にあたる内容を死後事務委任契約で定めることはできず、その部分は遺言によるべきとされています。

公正証書での作成が推奨される理由

 死後事務委任契約は、法律上は私文書でも有効に成立します。ただし実務では、金融機関・葬儀社・行政窓口などに受任者の権限を説明する場面が多くあります。本人の意思と契約内容を公証人が確認した公正証書であれば、相続人を含む関係者への説明も通りやすくなります。また、委任者の相続人が契約を解除できるかという論点もあるため、解除に関する条項の設計とあわせて公正証書化を検討する意義は大きいといえます。

預託金の取扱いと確認事項

 葬儀費用などは、生前に預ける預託金から支払うのが一般的です。過去には預託金の流用が問題となった事例もあり、令和6年6月に関係省庁が公表した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」でも、預託金を事業者の運営資金と明確に区分して管理すること、費用の内訳を利用者に示すことが求められています。金額・使途・精算方法・残金の返還先を、契約書に具体的に明記しておくことが不可欠です。

まとめ

 死後事務委任契約は、亡くなった後の実務を確実に託すための法的な仕組みです。ひとり暮らしの方、家族が遠方にいる方、家族に負担をかけたくない方にとって、終活の中心となる制度といえます。任せる範囲を具体的に定めること預託金の扱いを明確にすること遺言・任意後見と一体で設計すること——この三点が、実効性のある契約をつくる鍵となります。

 ※本記事は一般的な情報提供を目的としています。内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。