「親が認知症になったら、預金や自宅はどうなるのか」「家族が柔軟に財産を管理できる方法はないか」——高齢化が進むなか、こうした不安を抱える方が増えています。その備えとして注目されているのが家族信託(民事信託)です。ここでは仕組みと注意点を整理します。
家族信託とは
家族信託とは、自分(委託者)の財産の管理や処分を、信頼できる家族(受託者)に託す契約です。財産から利益を受ける人を受益者と呼び、当初は委託者本人が受益者となる形が一般的です。
家庭裁判所の監督下に置かれる成年後見制度と異なり、契約内容を家庭の事情に合わせて設計できる柔軟性が最大の特徴です。「元気なうちに、財産を管理する権限だけを子へ渡しておく」仕組みとイメージすると分かりやすいでしょう。
注目される背景|認知症による資産凍結
判断能力が低下したと金融機関に判断されると、預金の払い戻しや不動産の売買契約が事実上できなくなります。いわゆる資産凍結です。実家が空き家になっても売却できない、介護費用を親の口座から捻出できない、といった事態は決してまれではありません。
あらかじめ家族信託を設定しておけば、受託者となった家族が管理を継続できるため、こうした行き詰まりを避けられます。
信託できる財産・できない財産
自宅や収益不動産、預貯金、自社株式、貸付金などが対象です。一般のご家庭では「自宅+当面の生活費」を信託するケースが多く見られます。
一方、年金受給権は法律上譲渡できないため信託できません。生活費を賄うには、受け取った年金を信託口座へ移すなどの運用面の工夫が必要です。農地や、金融機関によっては上場株式なども取扱いに制約があります。
家族信託で実現できること
第一に、認知症後も財産の管理・修繕・売却を家族が続けられます。第二に、財産を「誰に」「どの順番で」承継させるかを指定でき、遺言では難しい二次相続以降の承継先まで設計可能です。ただし信託法上、信託開始から30年を経過した後の新たな承継は一度限りとされています。第三に、賃貸経営や事業の承継を円滑に引き継ぐ手段としても活用されています。
知っておきたい注意点
便利な制度ですが、万能ではありません。受託者に身上監護の権限はなく、施設入居契約や入院手続きは対応できないため、任意後見制度との併用を検討する場面があります。また、信託した不動産から生じた赤字は他の所得と損益通算できません。承継先を自由に決められても遺留分侵害額請求は排除できず、家族信託そのものに直接の節税効果はない点にも留意が必要です。
費用面では、公証人手数料、不動産の信託登記費用、専門家報酬などの初期費用がかかります。長期的な負担は後見制度より抑えられる傾向にありますが、導入時の出費は小さくありません。
検討をおすすめしたいケース
自宅や収益物件の管理を信頼できる子に託したい方、配偶者から子へと段階的に承継させたい方、裁判所への報告義務を避けたい方に適した制度です。
もっとも、契約は委託者に判断能力があるうちにしか結べません。「そのうち考えよう」と先延ばしにするうちに手遅れになるケースが最も多いため、早めの検討が重要です。
まとめ
家族信託は、家族の生活と財産を守るための「転ばぬ先の杖」です。柔軟性が高い一方、「誰に、何を、どのように託すか」の設計を誤ると想定どおりに機能しません。
行政書士吉田哲朗事務所では、丁寧なヒアリングを行い、ご家庭の状況に合わせた信託契約の設計と書類作成をサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。