2026年8月10日

「もしも」の時、誰を頼りますか?元気な今だからこそ設計できる「任意後見契約」

 「将来、もし認知症になったらどうしよう」「子供たちに迷惑はかけたくないけれど、誰に頼ればいいのだろう」。ふとした瞬間に、そんな老後の漠然とした不安を感じることはありませんか。高齢化が進む今、多くの方が抱えるこの悩みには、元気な今のあなただからこそ選べる備えがあります。それが任意後見契約です。国が決めたルールに従うだけではなく、あなたの老後をあなた自身で設計するための制度について、分かりやすく解説します。

任意後見契約とは「未来の自分への指示書」

 任意後見契約とは、将来、判断能力が不十分になった時に備えて、あらかじめサポーターを決めておく契約です。すでに判断能力が低下してから家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」とは異なり、誰に頼むか、何を頼むか、どこまで任せるかを、すべて自分の意思で決められる点が最大の特徴です。

 なお、この契約は公証役場で公正証書として作成することが法律上の要件とされています(任意後見契約に関する法律第3条)。私文書で作成しても法的な効力は認められません。作成された契約は法務局に登記され、公的に記録として残ります。

なぜ「元気なうち」でなければならないのか

 ここが最も重要な点です。任意後見契約は、判断能力が十分にある状態でなければ結ぶことができません。「もう少し年をとってから」「物忘れが気になりだしてから」と先延ばしにしていると、いざという時に制度そのものが使えなくなってしまいます。

 早めに準備しておくことには、実務上も大きな意味があります。第一に、家族間のトラブルを防げること。「誰がお金を管理するか」で親族が揉めるのはよくある話ですが、あなたが指名しておけば認識のズレを防げます。第二に、どんな施設に入りたいか、どのような介護を望むかといった希望を、自分の言葉で残せることです。

具体的に、何をどこまで頼めるのか

 契約内容はオーダーメイドで設計できますが、代理権の中心となるのは財産管理身上保護の二つです。財産管理には預貯金や不動産の管理・処分、年金の受け取り、税金や公共料金の支払いなどが含まれます。身上保護には、老人ホームの入居契約や介護サービスの申し込みといった手続きが該当します。

 すべてを丸ごと任せる必要はありません。「自宅の管理は頼むが、売却の権限は与えない」といった細かな調整も可能です。

知っておきたい注意点

 メリットばかりではない点も正直にお伝えします。任意後見人に与えられるのは契約で定めた範囲の代理権だけで、法定後見人と違って取消権や同意権はありません。そのため、ご本人が訪問販売などで結んでしまった不利な契約を、後見人が後から一方的に取り消すことはできないのです。この点は、代理権目録に契約の解除やクーリング・オフに関する事項を盛り込むなど、契約設計の段階での工夫が重要になります。

誰を後見人に選べばよいか

 後見人はご家族でもなれますし、行政書士などの専門職を選ぶこともできます。選ぶ基準は「信頼関係」と「事務処理能力」です。ご家族にお願いする場合は安心感がある一方、銀行とのやり取りや裁判所への報告が大きな負担になることもあります。専門職に依頼すれば、感情的なしがらみなく事務を確実に進められるという利点があります。

任意後見は「老後の保険」です

 「契約したら、すぐに財産を管理されてしまうのでは」と心配される方もいますが、そうではありません。この契約は、実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で初めて効力が生じます。監督人が後見人の仕事をチェックする仕組みになっており、その報酬は家庭裁判所が定め、ご本人の財産から支払われます。

 もし一生お元気で過ごされたなら、この契約は使われないまま終わることもあります。それで構わないのです。任意後見契約は「何かあった時のための保険」であり、備えがあるという安心感は、今の生活をより前向きなものにしてくれます。老後の不安を抱え込むのではなく、自分の意思で未来を整えてみませんか。

行政書士吉田哲朗事務所からのお知らせ

 当事務所では、建設業許可などの許認可業務に加え、相続や遺言、そして今回ご紹介した任意後見契約のサポートも丁寧に行っております。「自分にはどんな備えが必要か」「家族に頼みにくい場合はどうすればよいか」など、まずはお気軽にご相談ください。あなたの想いを形にするお手伝いをさせていただきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。