相続の手続きで最初に取りかかるべき作業が、誰が相続人になるのかを戸籍で確定させる調査です。実務ではこれを「推定相続人調査」と呼ぶことがありますが、この言葉は本来、被相続人が生きている間に使う用語です。まずは、その整理から確認していきます。
「推定相続人」と「相続人」は指す時点が違う
推定相続人とは、相続がまだ開始していない段階で、いま相続が起きたとすれば相続人になるはずの人をいいます。民法が定める推定相続人の廃除(民法第892条)も、被相続人の生前を前提とした制度です。遺言の作成、任意後見契約、生前贈与といった生前対策では、この推定相続人を戸籍で把握することが出発点になります。
これに対し、被相続人が亡くなった後に行う調査は、相続人調査(法定相続人の確定)と呼ぶのが正確です。なお相続放棄があった場合、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われますので(民法第939条)、放棄の結果によって相続人の顔ぶれが変わる点には注意が必要です。
なぜ相続人の確定が欠かせないのか
遺産分割協議は、相続人が一人でも欠けたまま行うと無効になります。預貯金の解約や不動産の名義変更も、相続人全員を戸籍で証明することが前提です。後から相続人が判明すれば協議をやり直すことになり、時間的にも精神的にも大きな負担が生じます。
また、相続放棄は各相続人が単独で申述できますが、限定承認は相続人全員が共同で行わなければなりません(民法第923条)。いずれも原則として相続の開始を知った時から3か月以内の判断となるため、早い段階で相続人を確定させておく意味は大きいといえます。
相続人調査で実際に行うこと
1つ目は、被相続人の出生から死亡までの戸籍をそろえることです。現在の戸籍だけでは足りず、婚姻や転籍による除籍、改製原戸籍まで遡り、記載が切れ目なくつながることを確認します。
2つ目は、婚姻・離婚・認知・養子縁組の有無の確認です。前婚の子、認知された子、養子縁組の事実が判明することは珍しくありません。家族の記憶だけでは把握しきれない相続人が現れる典型例です。
3つ目は、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹という法定の順位の整理です。子がすでに亡くなっていれば孫へ代襲しますが、兄弟姉妹の代襲は甥姪の一代限りである点にも注意します。
戸籍の広域交付とその限界
2024年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍をまとめて請求できる広域交付制度が始まりました。ただし請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られ、兄弟姉妹の戸籍は対象外です。郵送請求や代理人による請求もできず、行政書士などの職務上請求にも利用できません。コンピュータ化されていない古い戸籍も対象外とされています。
兄弟姉妹が相続人となるケースや、本籍地の移動が多いケースでは、結局は本籍地ごとの郵送請求が必要になります。戸籍の収集と読み取りは、想像以上に手間のかかる作業です。
まとめ
生前であれば推定相続人の把握、相続開始後であれば相続人の確定。呼び方は違っても、土台となるのは正確な戸籍の読み取りです。最初の一歩を丁寧に行うことが、手戻りのない相続手続きにつながります。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としています。内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。